| 世界の血管外科教育事情 | ||
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| 平成15年度から外科系の専門医制度が導入され,これまでの外科認定医は専門医となり二階建て方式で消化器外科や心臓血管外科,小児外科,呼吸器外科などがsub-specialityとして専門化される.血管外科は現時点では「心臓血管」という「括り」のなかで専門医制を追求することになっている.「血管外科」が一つのsub-specialityであることは多くの人が認めるところではあるが,現状では他疾患と比較して未だ症例数は必ずしも多くはないことから,診療科の一つとして,あるいは教育や研究における一分野として独立性を強く主張する域には達していない.しかし血管外科の内容は極めて高い専門性を有しており,我が国においても卒後の外科教育システムの中で血管外科のそれを構築することは急務となっている.そこで当科から留学経験のある米国や英国,フランス,イタリア,オーストリアなどの欧米諸国の各国ではどの様な現状かを概観してみた. 米国では,血管外科のresidency trainingを司っているのは,American Board of Surgery (ABS)に属するAssociation of Program Directors in Vascular Surgery(APDVS)という組織で,vascular web(http://www.vascularweb.org/)の中のvascular trainingという項目に,学ぶべき事項が動脈瘤から門脈圧亢進症まで25ジャンルに分けて記載されている.レジデントは一般外科を 5 年やり,ABSの認定を受けた後“Special Qualifications in Vascular Surgery”に格付けするべくさらに 1~2 年のトレーニングを受け,口頭試験と筆記試験を受けてABSからcertificationを授与される.血管外科経験症例数としては一般外科レジデントの 5 年間で40例,血管外科をsub-specialityとするtrainingとして70例以上が必要とされる.Stanfordでは,この血管外科としてのレジデントのトレーニングは,一年がopen surgery,もう一年がendovascular training ということになっており,血管外科としては初めのopen surgeryの一年で400例の血管外科手術,二年目のendovascular trainingで,数百のカテーテルの手技を行っているといわれている.“Wesley Moore's Textbook in Vascular Surgery”や“Current Therapy in Vascular Surgery”(Stanley & Ernst)などが教科書となっているようで,合格率は,筆記試験80~90%.口頭試験70~80%とされる. 英国では 2 つの認定試験(MRCS, CCST)があり,MRCSは,2 年間のSHO(いわば研修医で内科も外科も婦人科も好きなところをローテート可)の後に外科を目指すものが受ける試験で,CCSTは,registrarがconsultantとなる出口として設定された認定制度で,1997年よりIntercollegiate specialty examination(ISE)という試験にパスすることが絶対条件となっている.このISEは,現時点ではすべて口頭試験であり,general surgeryに関する質問が基本であるが,志願者が自分のsub-specialty(vascular,upper GI,etc) を事前に declare すれば質問の半分はその内容が盛り込まれることになっており,多少専門性も吟味されるといわれている.しかし,いずれにせよtitleとしてあたえられるものはconsultant surgeonであり,専門性を示すものではない. フランスでは,血管外科のqualificationの制度は国から認められたもので,心臓外科とは分かれて20年前に始まり,一般外科医は血管外科手術を行わない.一般外科認定医のための5年間のresident修練中に 2 年間の血管外科の期間をおき,さらにfellowとして 3 年間の血管外科の専門的修練を国が指定する27の指定大学病院で行い,術者として年間50例以上の経験をつむ.この 5 年間(レジデントの 2 年+フェローの 3 年)は年間 2 から 3 の指定学会に出席する必要がある.5 年間の最後に臨床研究を発表し,認定試験がある.これは筆記試験の基礎試験と口頭試問が有り,提出した臨床経験記録は別個に審査される. イタリアでは,6 年間の医学部卒業後はスペチャリザンテ(研修医とレジデントを併せたような呼称)として大学の専門課程で実技および研修を積むことになる.その専門課程としては31課程が設けられていて,その中のひとつに血管外科 Chirurgia vascolare があり,その期間は血管外科は大体 5 年前後とされる.毎年各教室から一人ないし二人が教授の推薦で選ばれるが,口頭試問や推薦が重視されている.この専門課程を修了すると,スペチャリスタ(専門医)と呼ばれ初めて開業することができる. オーストリアでは,一般外科を含め血管外科専門医を取るのに 9 年間を要し,手術件数は大動脈手術35例,鼠径靱帯以下の再建35例,頸動脈再建20例,シャントや静脈手術などを含めて220例以上が術者として必要とされる. これらの各国の状況を鑑みて我が国の専門医制度を見てみると,一般外科専門医として必要な 5 年間に加えて心臓血管外科専門医として 2~4 年間のトレーニングが行われ,症例の実技は手術難易度や手術への参画度に応じて点数で加算される方式となっており,一応妥当な線でもあろう.しかし多くの国が既に血管外科に限定した専門医制度を取っており,我が国の様に心臓外科と混在したシステムは取られていない.この歪みは,我が国に特有で時代の流れにそぐわない医局講座制に根ざしている側面は否定しがたい.一般消化器外科から血管外科へ,オールラウンドプレーヤーとして数千例を経験してきた自らの外科医人生を振り返ると,血管外科は一般外科の中に位置づけられるべきものであり,そこに位置づけることで一般外科の技術水準の向上も望めるのではないかと考えるが,こうした考え方は既に古い外科医の在り方なのかもしれない.言うまでもないが専門医制度は専門医になろうとするもののためではなく,治療における専門性を必要とする患者のためであり,歴史的にも世界に類を見ない超高齢化社会が出現しようとしている我が国において,血管外科専門医を必要とする国民の要請は,直近の課題として現れてくることは明らかであろう.そしてその局面で専門医としての血管外科医が望まれるためには,血管外科の専門性を誇示できる質の高い診療や研究を日々積み重ねておくことが重要である. (各国の血管外科教育事情の情報を提供してくれた同僚,宮田哲郎,布川雅雄,畠山卓弥,小見山高士,細井温,保科克行,宮入剛の諸兄に深謝する) |
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