血管外科を支援する心臓血管麻酔 | ||
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血管外科の進歩は目覚ましく,かっては最もリスクが高かったA型急性大動脈解離,三分岐再建を要する弓部大動脈あるいは胸腹部大動脈などの手術成績は今や著しい向上をみるに至っている. このような目覚ましい血管外科の優れた成績を実現させたのは,当然のことながら血管外科にかかわる指導的な外科医の涙ぐましい努力があったことは論をまたない.しかし,このことに関して血管外科手術を支援してきた麻酔学と麻酔医の力を正当に評価することも是非必要であるように思われる.私は心臓血管外科医でありながら,たまたま日本心臓血管麻酔学会の理事の 1 人をつとめている立場から,この巻頭言を執筆する機会にあえて“心臓血管麻酔”の問題を僅かばかり述べることをお許し頂きたい. わが国では従来から“心臓血管麻酔”は,“麻酔学”の中ではそのアイデンティティが強く主張されている領域とは言い難いかもしれない.その背景として,わが国における麻酔専門医の数そのものが欧米のそれと比較して,特に米国のそれと比較して相当に少ないという事情とも関連があるように思われる.“心臓血管麻酔”の重要さは麻酔医自身もまた心臓外科医,血管外科医も充分に承知していることは間違いない. ご存知の通り,日本心臓血管麻酔学会の歴史は極めて浅く僅か 8 年前に設立された.その設立に当たっては,故・藤田昌雄先生など多くの先輩が熱心に関与している.また,海外の優れた心臓血管麻酔領域のリーダー達のサポートを得て,今やわが国においてもその存在が広く認められつつあり,その会員数が1400名の大きな学会(理事長:畔 政和)にまで急速に成長しつつある.海外の心臓血管麻酔の専門医であるコロンビア大学のDaniel M. Thys,NYマウントサイナイ病院のSteven Konstadt,アルバートアインシュタイン大学のYasu Oka教授など世界レベルの心臓血管麻酔医のエキスパートがその創立のために大いに貢献したという事実も付け加えたい. しかし,血管外科医あるいは心臓血管外科医から“心臓血管麻酔”が正当に評価をうけているかというとまだまだ充分とは言い難いように思われるが,それは私の偏見であろうか. 心臓外科医がその成績向上を望むとき,心臓血管麻酔の専門医をそのパートナーとすることが出来るならばなんと素晴らしい環境であろう. 現在までのところ,前述のとおり“心臓血管麻酔”というアイデンティティは確立されているが,まだ充分とは言い切れない.日本心臓血管麻酔学会の最近のプログラムの具体的な事例をあげるならば,「胸腹部大動脈瘤手術時の脊髄保護とモニタリング」,「低体温循環停止法と脳保護」などがあり,心臓血管麻酔医と心臓血管外科医や血管外科医が一体となって患者に最大の利益を与えるために討論を行なっている. ところでもう一つの日本心臓血管麻酔学会の活動を紹介させていただきたい.それは,術中モニターとしての経食道心エコー図法(TEE)の技術認定のプログラムが日本心臓血管麻酔学会が中心となって開始されていることである.いうまでもないが,胸部大動脈の手術に限らず血管外科一般の成績向上のためにTEEは今や必須のツールであることは異論のないことである. 明年,2004年 9 月には東京において,国際心臓血管麻酔学会が国内学会とジョイントで慶應義塾大学・武田純三教授の会長のもと開催されることが決まっている.日本血管外科学会の会員が多数この国際学会に参加されることが大いに期待されている. |
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