日本血管外科学会理事長就任にあたって


特定非営利活動法人
日本血管外科学会
理事長 宮田 哲郎

 平成24年5月に長野市で開催されました第40回日本血管外科学会総会で第4代理事長に選任されました宮田哲郎と申します。中島伸之先生、安田慶秀先生、重松宏先生が理事長として発展させてきた伝統あるこの学会の理事長に就任することは、大変光栄であると共に、その重責に身の引き締まる思いでおります。先輩諸氏がご尽力なさり育ててこられたこの学会を更に発展させるために、会員の先生方一人一人の更なる強いご支援が不可欠ですので、今後とも何卒よろしくお願い致します。

 日本血管外科学会はその名称が冠されたのは1992年のことですが、1963年に発足した研究会が起源となるため、設立されて半世紀を経過した歴史ある学会です。会員数も3215名(2012年3月31日現在)を数えるに至っています。日本血管外科学会の役割は研究や教育を通じて日本の血管外科学の向上を図り、国民の健康と福祉に貢献することです。また、会員である血管外科医を守り、働きやすい環境作りに取り組むことも大変重要な役割であると思っています。社会が更なる高齢化へと進む中で血管疾患は増加し続けています。また、医療事故や医療不信など医療全体を取り巻く問題も未解決の部分が多く残されています。専門家集団である血管外科学会に課せられた責任は益々大きくなっています。私はこれまでのこの学会の優れた活動を踏襲し、学会を挙げてこれらの問題に取り組んでいくつもりでおります。

1. 各種血管疾病統計の充実と社会に向けたエビデンスの公表

 医療の質向上のためには治療成績も含めた疾病統計データが不可欠です。これまで血管外科学会ではアンケート調査により日本の血管外科手術の現状をまとめ、アニュアルレポートとして公表してきました。これは日本の血管外科の現状を統計的に示す唯一の貴重なデータです。現在NCDにその役割を移しましたが、引き続きその統計を公表していく予定です。さらに血管疾患の治療の質を向上させるためには、遠隔成績を論じなければなりません。大動脈瘤のステントグラフト治療に関しては既にステントグラフト実施基準管理委員会が遠隔成績を公表しています。重症下肢虚血の治療に関しては、血管外科学会のJCLIMB(Japan Critical Limb Ischemia Database)委員会で我が国の重症下肢虚血の遠隔調査を計画しており、平成25年より登録開始予定です。これらの試みを確実に発展させると共に、他の血管疾患についても順次データを集めていきたいと思っています。PADに関しては外科的バイパス治療に加え、血管内治療が数多く行われるようになってきましたが、個々の病態にあった治療法の選択が治療成績向上のためには不可欠です。学会にはRCTを通じてエビデンスを明らかにし、診療ガイドラインを作成することが求められていますが、決して簡単な道ではありません。まずは集積されたデータを基に診療の現状を明らかにし、将来のRCTにつなげる努力から開始したいと思います。

2. 学術集会の充実と発展

 学術集会の内容やレベルはすばらしいものに発展してきていると感じています。その更なる向上を図ることはいうまでもありませんが、これまでに多くの貴重な演題発表が行われてきたにもかかわらず、それらをまとめた報告がほとんどなされていませんでした。上級演題はその時点での日本の血管外科の英知の集大成とも言うべきものだと思います。学会員のみならず、医学会や社会にとって大変重要な情報となるシンポジウムやパネルディスカッションなどの上級演題のまとめを、血管外科学会雑誌や英文機関誌であるAnnals of Vascular Diseases(AVD)を通じて発信してゆきたいと思います。
また、自らの経験から考えても、若手医師は学術集会で発表し、質問されることで成長します。学術集会は若手を育てるという重要な役割も担っているのです。優秀な発表論文を表彰したり、海外学会へ推薦したりするようなシステムを構築することで、学術集会を通じた若手医師教育をよりいっそう推進したいと思っています。

3. 医療安全対策の推進

 血管外科に限らず、医療者全てが社会と共に追求しなければならないのは医療安全の向上です。これは患者のみならず医療者の働く環境整備にとっても極めて重要なことです。患者が納得して医療を受けることができ、医療者が専門家としての自信と誇りを持って萎縮することなく医療を提供できる環境作りが不可欠です。血管外科学会は医学の他分野の学会と協力しつつ、医療安全に適した環境作りを推進してゆきたいと思います。

4. 血管外科医教育の推進

 血管内治療の進歩に伴い血管外科医の守備範囲は益々拡大しています。教育カリキュラム作成を通じて望ましい次世代血管外科医の姿を明らかにしていくことが必要です。教育カリキュラムを明らかにすることで、血管外科医のライフプランが明確になり、男女を問わず若手外科医が血管外科を希望する機会が増加することも期待されます。更に、その血管外科医を育てる血管外科教育施設を認定する作業を通じて、血管外科医教育システムを充実してゆき、将来は現在ある専門医制度と連携していきたいと思っています。

5. 国際交流の推進

 米国血管外科学会(SVS)、ヨーロッパ血管外科学会(ESVS)、アジア血管外科学会(ASVS)、世界血管学会連合(WFVS)、日韓血管外科合同会議などの海外の血管外科学会との連携を更に密にし、国際的視野に立って我が国の血管外科診療・研究・教育の更なる向上を目指したいと思います。特に、学会がバックアップする形で若手血管外科医が海外学会で発表する機会を増やすシステムを作りたいと思っています。

6. 診療報酬の改善

 昨年は多くの先生方の努力により血管外科手技の診療報酬改善が実現しました。しかしながら、未だ不十分な部分も多く残されており、よりいっそうの改善に向けた努力が必要です。学会を挙げて取り組んでいくつもりでいます。更に、診療報酬改善が血管外科医処遇改善に繋がる方策も是非模索したいと思っています。

7. 学会運営の透明化

 学会員数が右肩上がりで上昇しているこの学会は学会員数が3000名を超すようになってきました。これもこれまでの理事長、理事、評議員の先生方のご尽力の賜と思っています。組織が小さいときはあまり規則に縛られず、小回りや融通が利くことが大きな組織に発展させるために不可欠なことでした。しかし、大きな組織に成長すると、迅速性を残しつつも、学会運営の透明化を図る必要があります。血管外科学会もその段階に入ってきました。

 会員は全国に広く分散しており、大学のみならず第一線の病院で多数活躍している状況です。学会が求心力を持ち、それら多くの会員の意見を取り入れ、学会活動に反映し、学会員にフィードバックするという構図を描くためにも、合理的で有効な学会役員の選出方法、学会の運営方法などを検討してゆきたいと思っています。

 また、これらの多くの課題に対する取り組みを推進するためにも、委員会システムを整備する予定です。理事の先生方にはその委員会の核となり、推進役となって活動して頂き、理事会が中心となって学会員皆様と共に日本血管外科学会の発展に取り組むつもりでいます。

 私は長野で行われた血管外科学会の懇親会で、「血管外科のアイデンティティをより確実なものとしたい」と述べさせて頂きました。社会に対して血管外科というプロフェッショナリズムを宣言しアイデンティティを確立することは、患者にとっても医師自らにとっても極めて有益なことです。それは医師の誠実さ及び社会の医師への信頼があって初めて成り立つものです。我々は学会の自律(professional autonomy)と自浄(self-regulation)といった姿勢を明確に打ち出すことで、血管外科のアイデンティティをより確実にしてゆきたいと思っています。全ての会員の皆様の益々のご支援をよろしくお願い致します。